32-25 神格化(蓮華座と炎、水)

32-25 神格化(蓮華座と炎、水)

2006/8/31(木)


 仏像イメージの神格化
 蓮華座と炎、水

■ ガンダーラの大神変図と浄土図の原型
宮治 昭

 インドの仏教美術に、「舎衛城の神変」と呼ばれる仏伝のテーマがある。『ディヴィヤ・アヴァダーナ』の「プラーティハールヤ・スートラ(神変経)」によれば、釈迦は舎衛城の郊外において、外道(異教徒)を仏教に帰依させるために、神通力で打ち負かしたという。まず釈迦は深い膜想に入った後、体躯の上と下から火と水を交互に発出させる「双神変」を行い、さらに二龍王が創り出した蓮華座上に結跏趺坐して禅定三昧に入り、次々と蓮華座上に化仏を発出させる「千仏化現」の神変をなして、人々に説法したという。

 「舎衛城の神変」と一般にいわれる釈迦の奇蹟譚のうち、「双神変」の図像はガンダーラアフガニスタンのカーピシーの彫刻によく見られるのに対し、「千仏化現」の図像はグプタ時代以降インド内部で一般化する。サールナートやアジャンター石窟などに、この千仏化現の表現が好んで取り上げられている。

 サールナートの「千仏化現」の石板浮彫を見ると、画面下端から大きな蓮華座が生じ (二龍王が支える場合もある)、そこに転法輪印を結ぶ主尊の釈迦仏が結跏趺坐し、その周囲に多くの化現された仏陀たちがみな蓮華座上に表されている。化現された仏陀たちは、坐仏・立仏ともにあり、印相も種々であるが、興味深いことにそれぞれの仏陀の蓮華座はみな長い蓮茎を有し、下端中央の太い蓮茎から枝分かれする形で表されている。

 インドでは「蓮」は一つの世界を象徴すると同時に、蓮茎が枝分かれして次々に伸びて増殖するイメージから豊穣多産の象徴ともなっている。「千仏化現」の図像は、そうした蓮の象徴性に基づいているが、ここではあくまで釈迦の仏伝の一つのエピソードとして表されている。

 ところが、ガンダーラ美術には、大蓮華座上に結跏趺坐して転法輪印を結ぶ、大きな主尊の仏陀像を中心に、周囲に幾段にもわたって重層的に仏・菩薩・神々・供養者などを表した石板浮彫がある。モハマッド・ナリー出土の大浮彫(図22、ラホール博物館蔵)はその代表例で、画面の下端に、水流・魚・蓮華の表された蓮池があり、そこから龍王が半身を現して、主尊の坐す大蓮華を創り出している。

 こうしたガンダーラの浮彫は、前述のサールナートの「千仏化現」に近い表現であるが、主尊の周囲に表されているのは化現された仏陀のみならず、多くの菩薩や神々で、いずれも蓮華の上に立ったり、坐したりしている。しかもそれらの蓮華はサールナートの浮彫と異なり、蓮茎が表されているにもかかわらず、途中で途切れている。これは主尊仏陀の白毫から放たれた大光明が、次々と蓮華に化した表現と見られる。