300インド-10大乗仏教の興起

31-02 仏教を支えた人たち

31-02 仏教を支えた人たち 第一の要因は都市の発展が仏教を産み育て、都市の衰退が仏教の衰退をもたらしたということです。つまり、仏教は都市型の宗教で、都市または交易路の周辺に僧院が建てられ、僧たちは都市の大商人や王侯たちの寄進で生活をしていたの…

31-03 仏教の普遍性と「土地の神」

31-03 仏教の普遍性と「土地の神」 仏教がどのように伝播し、発展していったのかを考える場合に忘れてならないのは、その土地の神の存在である。「神」というと日本の神道を想い起す人が多いがここでは、「土着の神」という意味で使うこととする。 仏教の歴…

32-29 仏教の平等と新興勢力

32-29 仏教の平等と新興勢力 ■ 中村 元 『インド思想史』 岩波全書 これらの大国においては王権がいちじるしく伸張し、王族は人間のうちでの最上者と見なされていたが、バラモンは従前ほどの威信をもっていなかった。また諸都市においては商工業が非常に発達…

31-04 『龍樹菩薩伝』を読み解く

31-04 『龍樹菩薩伝』を読み解く ■ はじめに この章のテーマは、『大乗仏教の興起』である。大乗仏教の興起は謎とされている。はたしてそうなのか。インドにおいては、大乗経典や論書は作成されたが、大乗教団が成立することはなかったのではないか。大乗教…

31-06 『華厳経』と竜宮伝説

31-06 『華厳経』と竜宮伝説 『華厳経』は、全世界は毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)の顕現であるとする壮大な仏国土の思想を説く経典である。華厳経のサンスクリット語完本は未発見である。三世紀または四世紀頃、ホータンで単行の諸経が集成されて成立したと…

31-07 『龍樹菩薩伝』と竜宮伝説

31-07 『龍樹菩薩伝』と竜宮伝説 2006/9/10(日) ■ はじめに 龍樹(りょうじゅ ナーガールジュナ)はおよそ紀元150頃~250年頃のインドの論師である。伝記を記した『龍樹菩薩伝』によると、南インドのバラモン出身で、バラモンの学問をすべて習得したのち、仏…

31-09「唯識」と「如来蔵」思想

31-09:「唯識」と「如来蔵」思想 2006/9/12(火) 如来蔵思想とは、耳慣れない言葉かもしれない。かつてはむしろ仏性思想と呼ばれていた。しかし、如来蔵思想は仏教の歴史を理解するためのキーワードである。 インドでは一世紀頃に初期大乗経典といわれる一群…

31-10 大乗教典の成立の概略

31-10 大乗教典の成立の概略 2006/9/13(水) 大乗仏教が成立したのは中国においてであると考えるが、経典の多くはインドで作成された。インドにおける、大乗経典の成立の経過を概観しておこう。 先ず、初期大乗経典といわれるものが一世紀頃に成立する。『般…

300- 32-17 法顕と西域

2006/9/14(木) 初期大乗経典は一世紀には成立している。しかし、その頃のインドや、その後の中央アジア、また、西域において大乗仏教がどのように展開していったかは定かではない。仏教遺跡の発掘が進んでいないことがその理由の一つであろう。しかし、遺跡…

31-14 無着(アサンガ)の伝記

31-14 無着(アサンガ)の伝記 2006/9/18(月) ■ アサンガ(無著)について 〔第一子の〕ヴァスバンドゥ(世親)は〔もともと大乗の〕ボサツの資質をそなえた人であったが、やはりまた説一切有部において出家し、そのあと禅定を修めて、一切の欲望から離脱す…

31-15 「唯識」という仏教思想

31-15 「唯識」という仏教思想 2006/9/19(火) ■ はじめに グプタ王朝期(320~550年)のインドに「唯識」という仏教思想が生まれた。空の思想を受けつつも、一切が空であるという龍樹の中観派に対し、一切は空にあらずという主張をした。その開祖は、無著、…

31-16 「無記」の一般的な理解

31-16 「無記」の一般的な理解 2006/9/20(水) 「無記」とは、形而上学的な問題について判断を示さず沈黙を守ることである。無用な論争の弊害からのがれ、苦しみからの解放という本来の目的を見失わないためにとられた立場である。 『マッジマ・ニカーヤ』(…

31-20 グレゴリー・ショペン

31-20 グレゴリー・ショペン 2006/9/24(日) グレゴリー・ショペン(Gregory Schopen)に『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』という著書がある。WEB検索で偶然見つけたこの本の紹介文に衝撃を受けた。 「インドでは四世紀まで大乗経典は制作されても大乗教…

31-22 「無記」と龍樹の中論

31-22 「無記」と龍樹の中論 2006/9/27(水) 少し前の文で、「無記」の一般的理解について述べた。その説明方法は「毒矢の喩え」として多くの仏教入門書に必ずといってよいほど紹介されている。皆さんはこのような説明で納得されたでしょうか。若い頃に初めて…

31-24 グプタ朝とヒンズー教

31-24 グプタ朝とヒンズー教 2006/9/30(土) 三世紀になるとクシャン朝は衰退し、北インドは分裂状態に陥った。四世紀前半、かつてのマウリヤ朝の都であったパータリプトラのグプタ家(ビハール州の藩王の家)のチャンドラグプタ一世(位320~335頃)がビハー…

31-25 「伝説」のもつ意味

31-25 「伝説」のもつ意味 2006/10/1(日) 大乗仏教興起の謎をめぐって、グレゴリー・ショペンの説を紹介した。ショペンは、「碑文」という日常生活を生で伝える資料を用いて、運動としての大乗を再現しようとした。ショペンの説は平川彰の大乗仏教の「仏塔起…

31-26 龍樹と鳩摩羅什

31-26 龍樹と鳩摩羅什 2006/10/3(火) ■ はじめに 龍樹は西暦150~250年頃の人で、ナーガールジュナ(Nagarjuna)という。インドのバラモン(婆羅門)の学問をすべて習得したのち仏教に転向して、当時の上座部仏教と初期大乗仏教とを学んで大乗仏教に傾倒し、あま…

31-27 仏教興起の頃のインド

31-27 仏教興起の頃のインド 2006/10/4(水) 西紀前五、六世紀はインドの歴史における重大な転換期を示している。アーリア人はこのころ、ガンジス川の中流にまで進出していたが、その社会は従来の部族内寡頭政治から専制君主を持つ国家群へ、部族的支配の下の…

31-28 「菩薩」の変化

31-28 「菩薩」の変化 2006/10/25(水) 大乗の菩薩は、不退転の決意を持ち、悟りのためには命を捨ててもよいという、すさまじい決意に満ちた人々である。初期大乗経典である般若経群に見られる菩薩は、砂漠を移動する隊商のリーダーのようなたくましさを持っ…

31-30 波羅蜜と「空」

31-30 波羅蜜と「空」 2006/10/25(水) 波羅蜜はパーラミターの音写語である。パーラミターは「完成、極致」または「到彼岸」(彼岸に到ること)を意味する。初期仏教の修道規範である八正道(正見・正思惟・正語・正業・正命・正精進,正念・正定)に対比さ…

31-31 平川彰からショペンへ

31-31 平川彰からショペンへ 2006/12/6(水) インド仏教を教義の歴史としてとらえる見方が主流であった学会の中で、それを僧の歴史と見る新たな方針を打ち出し、偉大な業績を築いたパイオニアが平川彰である。律蔵研究の権威であった平川は、その該博な知識に…

31-32 テーラヴァーダと大乗仏教

31-32 テーラヴァーダと大乗仏教 2006/12/8(金) ■ はじめに 大乗仏教とテーラヴァーダ仏教の間の対話を考えてみたいと思います。テーラヴァーダ仏教とは、スリランカ、ミャンマー、ラオス、タイに定着している仏教でありますが、ベトナムは中国文化圏であり…

31-33 テーラヴァーダの系譜

31-33 テーラヴァーダの系譜 2006/12/9(土) 大乗と小乗というように両者は対立的なものとして扱われることが多いが、意外な共通点があるものである。以下に紹介する文の最後のところに注目していただきたい。その理由についてもう少し詳細に知りたいところで…

31-34 西方文化との接触

31-34 西方文化との接触 2007/2/13(火) 釈尊入滅のあと、一応の安定を得ていたインド北西部は、その百年に満たないころ、はるか西方のギリシア軍の進入を受ける。マケドニアに発して、ギリシア全土を統一を果たしたアレクサンドロス大王は、疾風怒涛のごとく…

31-35 インドの「南北朝時代」

31-35 インドの「南北朝時代」 2007/2/21(水) 前四世紀の初め、インドには、最初の統一国家であるマウリヤ王朝が出現(前317年)する。当時、ガンジス河中流から下流の地域に、最大の勢力を擁したマガダから興ったチャンドラグプタは、アレクサンドロスの軍…

31-36 仏教の普遍性

31-36 仏教の普遍性 2007/2/21(水) 仏教は、キリスト教イスラム教とともに世界宗教といわれる。世界宗教とは、地域や民族の差異を超えて世界的規模で信仰されている宗教を指す。本来、一つの民族(あるいは部族)によって信仰される民族宗教が宗教の始まりで…

31-38 「大乗非仏説論」の今日

31-38 「大乗非仏説論」の今日 2007/5/11(金) 現在の学界では、ブッダが歴史上に実在したゴータマ・ブッダであることを暗黙の了解として共有している。そこで問題になるのは、大乗経典に説かれるブッダです。初期経典に現れたブッダと大乗経典に現れたブッダ…

31-39 普遍的帝王とは

31-39 普遍的帝王とは 2007/5/29(火) 仏教の歴史にとって普遍的帝王の登場は大きな意味を持っている。普遍的帝王は仏教を国教的な位置につけ、仏教の発展と普及に貢献した。普遍的帝王とは何か。また、なぜ普遍的帝王は仏教を重視したのか。最初の普遍的帝王…