22-13 韓国の松と日本の桧

22-13 韓国の松と日本の桧

2006/10/26(木)


 松の話をもう少し続けることとする。松を彫刻や建築の用材として考えるのは少し疑問があるかもしれない。「松の木は割れやすくまっ直ぐな長い材木が少なく、また松脂(まつやに)が多いため加工性は低く、加工した後にもたびたび割れたりよじれたりするので、建築用材としては制約の多い樹種である。」 広隆寺弥勒菩薩像は一木彫りである。大きなひびやよじれもない。一本の木から彫り出されている。弥勒菩薩像の高さは84.2cm。材料とされた松はまっすぐに育った大木でなければならない。そんな大木があるのか。

 一冊の本に出会った。上記の引用もこの本からである。
  全瑛宇著 金相潤訳 『森と韓国文化』 図書刊行会
 全瑛宇(ちょんよんう)さんは、山林生物学の専門家である。

 韓国にはまっすぐに育った松の大木がある。この本によれば「天をつくようにすらりと高く聳え立った金剛松」という表現である。「太白山と小白山の間に位置する両白地方(慶尚北道北部地域と江原道地域)は昔から質のよい松の木の産地として知られている。」「30メートル以上もまっすぐ育つだけでなく材質も優秀な金剛松は、特に幹の内部が黄色く緻密な材質を持ち、建築材として優秀なため、昔から名声が高かった。」 本はこの金剛松の存在を前提として、広隆寺弥勒菩薩像は「韓国の松の木で造られた木彫仏像である」との基本認識を示している(114頁参照)。

 本は、景福宮の復元についても触れている。都棟梁の申鷹秀さんの話が紹介されている。「(韓国では)一般に民家や寺院という大きな木造建物を建てるための材木としてケヤキ、楢類、モミなどが松の木とともに使われたが、王の居所の宮殿である宮殿は松の木だけで建てたという。」 その理由は「韓国で育つ木の中で松の木が最も丈夫であり、最も容易に手に入れることができる最高の木であったから」である。

 韓国では宮殿を築造する棟梁を都棟梁というのだそうだ。都棟梁は檜(ひのき)についても「たとえ日本では檜が良い材木であっても、韓国の建築物には松の木が一番良い」といい切っている。この話を聞いて薬師寺など奈良の寺院の再建に生涯を捧げた西岡棟梁のことを思い出す人もあるだろう。この都棟梁の信念のお陰で景福宮が松の木で復元され、私は弥勒菩薩像との不思議な再会をすることができたのである。

 著者の全瑛宇さんは、韓国の風土と松に次のように述べている。
「夏を除き殆どの季節に見られる乾燥期や、季節間の気温差が大きい大陸性気候条件でも旺盛に生育する松の木に変わるほどよい針葉樹は、韓国ではそう見当たらない。」