ヴェーダ時代のダイナミズム

ヴェーダ時代のダイナミズム

2013/9/2(月)

 

 ブッダの時代の北インドには十六の大国が林立していた。いずれもヴェーダの文化を基調としていたが東西では大きな違いがあった。西部のパンジャーブ(インダス河上流域)地方にはクル王国、ドアーブ(ガンジス河上流域)にはパンチャーラ王国があった。この二国は最初のヴェーダである『リグ・ヴェーダ』が成立し、その後も残る三ヴェーダブラーフマナなどの注釈書が編纂された地域である。

 これに対して、ガンジス河の中流域には、マガダ国、コーサラ国、ヴィッチャビ国などがあった。これらの国は新興国であった。肥沃なガンジス平原、鉄器の普及、バラモンの権威から比較的自由であったことなどから、王権の主導の下に急速に伸びてきたと考えられる。都市が成立し商業が発達した。ウパニシャッド哲学や六師外道などの多くの思想家が活躍した地域である。ブッダが生まれ、生きた場所もここである。

 ヴェーダ時代は前期と後期に分けられる。前期は『リグ・ヴェーダ』が編纂された時代である。クル国など西部がその中心となった。後期の前半には残りの三ヴェーダブラーフマナなどの注釈書が編纂された時代である。その後半にはウパニシャッド哲学が登場した。この前半の舞台はなお西部であったが、後半のウパニシャッド哲学の展開はガンジス川中流域が舞台となった。

 ヴェーダの注釈書の編纂の目的は王権の伸張に対してバラモンの権威と富を確保するために祭式を再編することであった。その再編が成功して、バラモンの権威が確立したと思われた頃、東のガンジス川中流域でその綻び始まった。コーサラやマガダなどバラモンの権威から自由な専制君主が支配する国が急成長し、マガダ国がインドを統一し、マウリア王朝となる。