ナイルの氾濫と暦

ナイルの氾濫と暦

2013/9/4(水)

 

 ナイル川の氾濫は上流域の熱帯雨林地帯に雨期がおとずれ大量の雨が降ることによって起こる。上流域は5000km以上のエチオピア付近である。雨期は毎年6月から8月。その水がナイル川を下って下流域で氾濫を引き起こす。エジプトは年間を通じて非常に乾燥した気候である。したがって、当時のエジプトの人々にとってはナイル川の氾濫がいつ始まるのかは予測できないことであった。

 氾濫の始まりと終わりの時期を知ることは農業にとって重要であった。氾濫が始まるとその水を畑に引く水路を作り、できるだけ多くの耕地に水が行き渡るようにした。また、氾濫が終わる頃には、水を畑にため込んで土を沈殿させるための堰を作った。畑が乾燥し始める頃に麦の種を播く。ミネラルや養分は上流から運ばれた土で補われ、雑草も耕地が水に浸かることによって抑制される。また連作障害も起こらなくなる。まことの合理的な農法である。

 当時夏至に近い時期になると、ナイル川が増水し氾濫するということは分かっていた。この増水の時期を正確に予測出来れば、洪水の危険を除き、豊かな収穫だけを手にすることも可能である。こうしてエジプト人は発見した増水時期の始まりが、シリウスの日出直前出現と一致することの気づいた。シリウスおおいぬ座のα星。全天でもっとも明るい恒星である。シリウスは夏のころになると、日が昇る直前に、少しの時間だけ見えるようになる。この日出前のシリウス出現の最初の日がヘリアカル・ライジングである。

 ヘリアカル・ライジングの平均の間隔を調べると、365日毎に繰り返されることが分かった。エジプトでは遅くとも紀元前3000年頃には 1年が 365日であることが知られていた。エジプトの暦は太陽暦の下になったのであるが、「シリウス星暦」と呼ぶべきかもしれない