No.06 T.S.エリオット 『伝統と個人的な才能』

 歴史感覚には過去が過去であるということはもとより、過去が現在に生きているという認識がなければならない。歴史的感覚が入にものを書かせるとき、骨の髄まで自分自身の 世代のものであるだけでなく、ホメロス以来のヨーロッパ文学全体とそのヨーロッパ文学の一部である自国の文学全体が同時に存在しており、同一の秩序を形づくっているということを感じさせるのである。

 この歴史的感覚とは一時的なものだけでなく、時間的なものに対する感覚であり、時間的なものと一時的なものを一緒に認識する感覚でもあるが、これが作家を伝統的にするところのものである。そしてこの歴史的感覚は同時に時間のなかで自分が占める位置、自分自身の同時代性を作家に最も鋭く意識させるところのものである。(中岡洋訳)

 

2006/3/12(日)