金光明経

『金光明経』

2007/6/4(月)


『金光明経』(こんこうみょうきょう)

■ 内容

 『金光明経』は、日本でも『法華経』『仁王般若経』(にんのうはんにゃきょう)とともに,護国三部経として信仰されてきた。西域諸国で四天王崇拝、中国で金光明懺法が流行し、日本では国分寺四天王寺が建立され、最勝会(さいしょうえ)、放生会(ほうじょうえ)が催されたのも、本経の教えに基づくものである.

 まず経の始めに持経の功徳が説かれ、次に妙幢(みょうどう)菩薩が登場し,寿命無量のはずの世尊が、八〇歳で涅槃することへの疑問を呈する。如来は常住なる法身であり、涅槃は方便であることが説明され、妙幢の疑念は除かれる.

 夜、妙幢の夢に金鼓(こんく)が現われ、懺悔(さんげ)の偈を出だす。目覚めて後世尊のもとに赴き、憶念した偈を述べる。この懺悔こそが本経の中心思想であり,また光り輝く金鼓が『金光明経』の名前の由来となっている。その後、妙幢の因縁譚、空性説も説かれる.

 以下、非常に長い流通分に入る。まず、四天王などの諸天鬼神が、持経者や持経の国王、人民などを守護することを説いて、護経・流布を勧めている.

 次に、天神は,国王が正法を行えば守護するが、非法を行えば天神に見捨てられ、国が滅亡することを説く。これは,日蓮の「善神捨国」思想にも大きな影響を与えた。

 さまざまな経の功徳や,妙幢への授記などが説かれた後,釈尊の本生譚として,流水(るすい)長者子が魚を助けた話、及び摩訶薩埵(まかさった)太子が飢えた虎に一身を施し、菩薩行を行じた捨身飼虎(しゃしんしこ)の話が説かれる。後者の模様は,法隆寺玉虫厨子(たまむしのずし)にも描かれており,有名である.同様の話が『賢愚経(けんぐきょう)』などにも見られる。

 最後に、諸仏及び釈尊を讃歎し、一経を結んでいる。

 本経の如来蔵思想は,漢訳(2)(3),チベット訳(1)(2)のみに存在する「分別三身品」に説かれている。内容に関しては,「法身如来の自性=如来蔵」という、『宝性論』と同様の理解を示しており、同論の影響を受けたものと考えられる。一方「分別三身品」には、同論に説かれていないアーラヤ識・三性説もあり、増広者が唯識説にも通じていたことを伺わせる.


■ ハイライト箇所

 妙幢が世尊に対し、夢に聞いた懺悔の偈を述べる箇所からの引用である。懺悔による滅罪は,回向(えこう)と並んで業報の法則の超越であり、部派仏教には見られない思想である。自らを「偉大な乗り物」と称した大乗仏教は、如来の慈悲をもって、この法則から人々を解放しようとしたのである.

 十方世界においでの両足尊、慈悲深き仏さま、どうか私を受け止めて下さい。過去に私が犯した極悪の業、その一切を私は十力(=仏)の御前で告白(=懺悔)いたします。

 私は父母[の恩]を知らず,諸仏・善を知らず、罪を犯しました。自惚れて、家柄・財産を誇り、若さにかまけて驕り、罪を犯しました。私は罪を省みず、犯した悪業のために腹黒く、悪口雑言を吐いてしまいました。行いは愚かで、心は無知に覆われ、悪友に振り回され、心は煩悩に苛まれました。遊びに耽けったせいで憂いと怒りに悩まされ、自分の財産に満足せず腹をたて、罪を犯しました。下劣な者と交わったため嫉妬の原因となり、他人を裏切り、心貧しく怒ってばかりの私は、罪を犯しました。災いが起きると愛欲は恐れの原因となり、どうにもならなくなって、私は罪を犯しました。心は動揺し、愛欲と怒りに支配され、,飢えと渇きに苦しめられ、私は罪を犯しました。飲・食・衣・女を求めたため、種々の煩悩に悶え苦しみ、私は罪を犯しました。

 そのように積み重ねた身口意三種の悪行、その一切を告白いたします。仏・法・声聞に対し、不敬の念があったかも知れません。その一切を告白いたします。独覚・菩薩に対しても,不敬の念があったと思います。その一切を告白いたします。法師や他の徳の高い人たちに対しても、不敬の念があったと思います。その一切を告白いたします。私は無知で,常に正法を誹謗し、父母を敬いませんでした。その一切を告白いたします。愚かで、判断力がなく、傲慢・尊大の気持ちで一杯で、貪・瞋・痴のために[罪を犯しました]。その一切を告白いたします。

 私は、十方世界で十力[持てる諸仏]を供養し、十方で衆生を一切の苦から救い出しましょう。無量の一切衆生を十地に立たせましょう。十地に立った後、一切[衆生]は如来とならんことを。一切衆生が苦海から脱出できるまでは、衆生一人一人のために、何劫でも修行しましょう。一切の業を滅する、この『金光明最勝』という名の甚深の懺悔を、衆生のために説きましょう。千劫の間にたまった極悪の業一切は、一度に現われ出でて(=発露 ほつろ)、滅尽に赴きなさい。業障を速やかに滅除する、この清浄の『金光明最勝』という懺悔を、私は説きましょう。

(ノーベル刊本 §3・17-39)

http://suzuki.ypu.jp/Suv-j.html