デンマークのジャンテロウ 3

 ジャンテロウ、つまりヤンテ村の法律を見ているうちにいくつかの類似する例を思い出しました。競争社会になる前の日本の共同体です。農村共同体だけでなく企業内の社会もヤンテ村のような共同体であったのではないでしょうか。そこでは、まさに出る杭は打たれた社会でした。

 ところが歴史を遡るとヤンテ村の文化は類似の例を見いだすことができます。NHKTVのドキュメンタリー番組の『ヒューマン なぜ人は人間になれたのか』で紹介していたアフリカの奥地でのピグミーの狩猟採集生活です。同名の本から以下に抜粋して紹介させていただきます。

 バカの人々は「ピグミー」の総称で知られるアフリカ熱帯雨林の狩猟採集民族の一つである。NHK取材班は彼らの暮らすカメルーン南東部のドンゴ村に向かう。その6つの集落のうちもっとも奧にある1つの集落に着く。その集落には4家族25人のバカの人々が6軒の小屋に分かれて定住する。

 この奥地にも貨幣経済の影響は僅かだが及んでいる。しかし、狩猟採集に関する限り、分かち合いを尊び、格差を嫌う心がいまも人々を支配している。私たちが滞在した2日目、2人の若者が獲物を獲ってきた。その若者2人が肉を切り分けそれぞれの家族の調理人の女性に配布をする。内蔵にいたるまで分け前に隔たりのでないよう、細かく切ってさらに盛りつけていった。

 印象的だったのは、若者から肉を受け取った女性たちの態度だった。一言もお礼を言わない。肉を分け合うことは当たり前のことであっていちいちお礼をいったり、また自慢をしたりはしない。狩猟採集民族に分配を余儀なくさせているのは、もたざる者に対する憐れみや、助け合いの精神の発露ではない。それ以上に、他人の非難に対する恐れであると考えられる。

 そこまでして、不平等を排し、平等社会を築いた理由は明確である。保存が利きにくい環境の中では、独り占めするメリットが少ない。また、食物供給が不安定なこともあります。彼らにとっては長持ちしない物を溜めておくよりも人間関係を溜めておいた方がよほど有利なのである。これは「貧者のリスク回避のメカニズム」と呼ばれることがある。

 この狩猟採集社会での平等分配はヒューマニズムや道徳とは無縁かもしれない。しかし今日の競争社会の激しさとそこから生ずる格差などのゆがみがますます広がっていくのをみるとき、この平等社会にどこか懐かしさを覚えます。

 

2013/9/12(木)