17-07 月光童子の登場

17-07 月光童子の登場

2007/4/26(木)


 未来のあるとき、人間世界が危機におちいり、自然災害までそれに連動する。そういう思想が中国にはあり、讖緯(しんい)の文献に語られ、道教経典でもくりかえし説かれていた。讖緯とは、儒教の経典にかこつけて神秘的な予言を解いたものである。そのような世界の破局についての予言が、仏教の偽経において、法滅の危機と結びついたのである。その典型が『法滅尽経』と言えよう。

 『法滅尽経』に月光童子が登場する。

 そのとき、月光が世に現れ、教えを伝えようとするわずかな人々とあいまみえ、五十二年のあいだ、ともに教えを復興させる。
 まず、『首楞厳経』(しゅりょうごんぎょう)と『般舟三昧経』(はんじゅざんまいきょう)が世に現れ、やがて消えてなくなる。ついであらゆる種類の経典が現れ、また消えてなくなる。いずれも、もはや世に現れることはなく、文字さえも見られなくなる。

 月光童子は中国語訳の仏教経典にしばしば登場する。釈迦に危害を加えようとした父親をいさめる少年として語られている。そういう少年が末世に教えを復興する人物として描かれるようになった。月光童子への期待は、他の偽経においてもくりかえし語られている。しかし、月光童子の教えの復興は一時のことにすぎない。

 『法滅尽経』はさらに続ける。

 それから数千万年のちに、弥勒が世に下り、真理にめざめて仏陀となる。
 そのとき、世界は平和になり、毒気は消え去り、雨が大地をうるおし、五穀はおいに実る。樹木は巨大になり、人の背丈は八丈にも伸び、寿命は八万四千歳となる。救われる人々は数知れないほどである。

 法滅の危機と世界の破局が予言されたのち、弥勒の到来が語られる。それは数千万年のちであるという。そのとき世界は平和になるのだ。弥勒が到来することによって平和がもたらされるのである。『約束』に語られたように、すでに平和な世の中に弥勒が現れるのではない。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店