17-06 『法滅尽経』と末法思想

17-06 『法滅尽経』と末法思想

2007/4/26(木)


 『法滅尽経』のテーマは、僧侶の堕落と教団の危機がテーマとなっている。五胡十六国のうち最後に北魏に滅ぼされた北涼でも仏教が盛んであった。国王の沮渠蒙遜(そきょもうそん、在位401年-433年)は
中央アジアで名声がとどろいていたダルマラクシャ(中国名は曇無讖(どんむせん))を招いて、経典を中国語に訳すことを依頼した。412年に曇無讖は『大般涅槃経』(だいはつねはんきょう)40巻を訳した。

 『大般涅槃経』には、釈迦が亡きあとの僧侶の堕落と教団の危機についての心配が表明された。さらにそれへの警告として、教団のきまりを守ることが強調される。そこでは、家畜を殺して売りさばくことや、鳥や魚をつかまえることなど、犯してはならない禁止事項も列挙されている。

 同じような禁止事項が『遺教経』(ゆいきょうぎょう)と通称されるお経にも出てくる。正式の題名は『仏垂般涅槃略説教誨教』(ぶつすいはつねはんりゃくせつきょうかいきょう)である。釈迦が死に臨んで弟子たちに最後の教えを説いたものとされる。

 『浄土三昧経』というお経がある。中国で作られた疑経とされる。中国人の日常生活の中でどのように仏教を実践してゆくかを追求した経典である。北魏で仏教弾圧がおさまってまもないころ作られたと考えられている。『大般涅槃経』や『遺教経』において僧侶へのいましめとされたことがことごとく破られるかたちで語られている。

 このように見てくると『法滅尽経』に描かれた法滅のありさまは、先行する経典にもとづいた文章がほとんどだということがわかる。

 しかし、『法滅尽経』は法滅を描くことに終わらない。

 教えが今にも滅びようとするとき、天は涙を流すだろう。水は枯れ、天候は不順となり、五穀は実らなくなる。疫病が流行し、多くの人々が死に絶える。・・・

 法滅の世になると、自然災害まで起きるという。僧侶の堕落と教団の危機をくりかえし語る『大般涅槃経』には、自然災害はまったく説かれていない。しかし、『法滅尽経』は、自然災害による世界の破局が予言されており、そこからの救済が問題になっている。仏教本来の伝統においては、法滅の危機と世界の破局はまったく結びつかない。にもかかわらず、法滅を説く経典に世界の破局についての予言が加わった。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店