43-13 バーミアンの緑

43-13 バーミアンの緑

2006/3/11(土)


 手元に一冊の本がある。安田暎胤師の『玄奘三蔵シルクロード ガンダーラ編』(東方出版)である。安田暎胤師は、今、奈良薬師寺管主をされている。地元の岐阜市出身という縁もあって、何度かお話を聞かせていただくことがあった。

 その本を開いてみて表紙の近くの一枚の写真に惹かれた。「バーミヤン石窟の遠景」という説明がついている。写真の中心部の少し上には石窟のある断崖が左右に広がっている。その向こうには雪に覆われたヒンズークシの真っ白な峰々がそびえている。空は真っ青である。

 断崖の手前には、集落がある。大きな木が集落を取り囲むように何本も立っている。いずれも緑の葉が一杯ついている。さらに集落の手前には広大な畑が広がっている。バーミヤンは緑豊かな渓谷にある町であることをあらためて認識させられる。

 この本には他にもカラー写真がある。「山頂から眺めるタフト・イ・バヒ仏教寺院跡」の写真も遠くに緑に覆われた大きな集落が写っている。「パルティット故城より眺めるフンザの風景」も緑豊かな写真である。遠くの雪をいだく峰、渓谷は広く、畑が広がり、森のように見える集落がいくつもあるのがわかる。
 
 あとがきをみると、この写真は前田耕作氏の提供によるものとのこと。前田氏は現在は和光大学名誉教授でアフガニスタン文化研究所所長を勤めておられるようである。

 今回の敦煌への旅で驚いたのは、オアシスの規模の大きさと水の豊かさである。河西回廊には祁連山脈の万年雪が豊かな水が回廊沿いに点々といくつもの大きなオアシス都市を形成している。敦煌も河西回廊のオアシス都市のひとつである。トルファン天山山脈の東端に抱かれるようにある盆地であるため、天山山脈の万年雪の水の恵みを受けている。

 高昌故城の写真をみると、荒廃て赤茶けた風景が広がっている。緑は木も草もまったく見られない。しかし、高昌故城は大きなオアシスに隣接しているのである。そのオアシスは、ベゼクリク千仏洞の下を流れている渓谷の川の水に依存している。その渓谷は、火焔山の奥深くから流れ出てきている。

 また、トルファンの中心部は海抜ゼロかマイナスという低地である。周囲の山裾から中心部に向かって緩い勾配となっていると思われる。カレーズはこの勾配を利用したのではないか。トルファンの地下には天山山脈の雪解け水が流れている。

 砂漠も広大である。しかし、そこにあるオアシスも広大である。オアシスは水が豊かで、緑に覆われている。今回の旅では、「緑」が印象に残った。