17-02 弥勒信仰の伝来と『下生経』

17-02 弥勒信仰の伝来と『下生経』

2007/4/25(水)


 中国に弥勒信仰が伝わったのはいつか。『弥勒への約束』(以下『約束』という)というお経があることは別のところで述べている。もとはインドの文語であるサンスクリットで書かれたものである。その翻訳は四世紀ごろからあいついでなされた。今伝わっているのは次の五つである。

 一は、316年に没した竺法護(じくほうご)が訳した『弥勒下生経』である。
 二は、四~五世紀ごろ、訳されたとされる『弥勒来時経』。訳者はわかっていない。
 三は、413年に没した鳩摩羅什が訳した『弥勒下生成仏経』。
 四は、同じく鳩摩羅什が訳した『弥勒大成仏経』。 
 五は、713年に没した義浄が訳した『弥勒下生成仏経』。
 以上が、『約束』の中国語訳である。まとめて『下生経』とよぶこととする。

『約束』の内容は次のとおりである。
 とほうもない遠い未来のことである。そのとき人間の寿命は八万歳になっている。そこはゆたかできよらかな世界が実現している。転輪聖王(てんりんじょうおう)という理想の王様が現れ、世の中を平和に治めるだろう。

 そのとき、弥勒兜率天からくだってきて、この世に生を受ける。その身体は光かがやき、私たちの肘の長さの五十倍もの身長がある。弥勒は家にあって楽しまず、すべてのものはいつか滅びることに思いいたって、家を出る。そして龍華樹(りゅうげじゅ)の下で---あたかも釈迦が菩提樹の下で真理にめざめたように---真理に目覚めるのである。

 真理に目覚めた弥勒は、人々に教えを説きはじめる。最初の集まりで弥勒が教えを説くと、九十六億の人々が真理にめざめようとこころざす。二度目の集まりで教えを説くと九十四億の人々が真理にめざめようとこころざす。三度目の集まりで教えを説くと九十二億の人々が真理にめざめようとこころざす。弥勒はこうして六万年のあいだ教えを説き、最後に生と死のくりかえしから解放されて滅し去る。

 以上が『約束』のあらましである。

 弥勒について語る中国語訳の経典には『上生経』という経典がある。

参照・引用
・菊地 章太 『弥勒信仰のアジア』大修館書店